研究紹介

研究の興味

生命を担う精密機械「タンパク質」の不思議に迫る

タンパク質は、生命活動を担う重要な分子です。部品の数は数百個、数ナノメートルという大きさしかないにもかかわらず、芸術品と呼べるくらいの美しい造形と、人間の手では作れないようなとても多彩な機能をもっていて、かつ、驚くほど精密に働いています。しかし、その美しさのなかには、未だ多くの謎が秘められています。タンパク質がどのようにして機能するのか?どのような構造をしているのか?タンパク質の機能を決める要素は何か?タンパク質が働くしくみを知りたいというのが、私たちの興味です。

ロドプシンの機能発現メカニズム

レチナールという色素をもつ光受容体タンパク質は、レチナールタンパク質もしくはロドプシンと呼ばれています。大別して動物型と微生物型の2つが知られていますが、私たちの研究グループでは微生物型ロドプシンを調べています。近年、微生物型ロドプシンはさまざまな生物から発見されています。さらに、イオン輸送体、光センサー、酵素、転写調節因子など、機能が多彩なこともわかってきました。しかし、機能に多様性があるにもかかわらず、ロドプシンは共通の構造をもち、共通の光化学反応によって機能を発現します。共通の構造や反応をもちながら、ロドプシンはどのようにして多彩な機能を発現するのでしょうか?この問いを解決することができれば、ロドプシンの機能の本質を理解できたと言えるのではないでしょうか。

私たちの目標

私たちのグループでは、ロドプシンが機能するときの構造変化を分光学の手法を使って詳細に計測することで、多彩な機能を発現するしくみを明らかにする研究をおこなっています。また、遺伝子操作でタンパク質を自由にデザインする方法や、活性を定量的に測定する生理学の手法を併用して、微生物型ロドプシンのイオン輸送機能の全容解明に取り組んでいます。

研究テーマ1: 極限環境微生物由来ロドプシンの探索と機能・構造解析

極地、熱水・温泉、塩湖、強アルカリ性湖といった地球上の極限的な環境には、そうした環境に適応した微生物が生息しています。そのため、彼らのもつタンパク質も、極限的な条件下で効果的に働くことができるように進化してきました。こうした極限環境微生物のタンパク質は利用価値が高く、さまざまな場所で利用されています。例えば、高度好熱菌Thermus aquaticusのDNAポリメラーゼは、PCR反応の酵素に用いられています。 ロドプシンも例外ではありません。上に列挙した全ての環境から見つかっています。しかし、深海底や強酸性湖など、地球上にはまだまだ極限的な環境があります。このテーマでは、極限環境微生物から新たなロドプシンを探索し、材料応用を見据えながら、その機能と構造を調べます。もしかすると近い将来、地球外の環境からも…、と夢が広がります。

研究テーマ2: イオン輸送体ロドプシンの輸送方式、輸送基質イオンの選択性、輸送方向を決める要因の解明

イオン輸送体ロドプシンは、光を使って細胞膜の内外に能動的もしくは受動的にイオンを輸送します。このように、同じイオン輸送体であるにもかかわらず、能動的か受動的かという輸送方式が異なるのはなぜでしょうか?何が輸送方式を決定しているのでしょうか?
さらに、輸送基質となるイオンも多彩で、H+、Na+などのカチオン、Clなどのハライドイオン、NO3やSO42などの多原子アニオンなどが知られています。ではどのようにして、輸送基質イオンを選択しているのでしょうか?基質イオンの選択に、タンパク質のどんな要素が大切なのでしょうか?また、輸送方向にも細胞の外向きと内向きの2種類がありますが、輸送方向を決める要因はいったい何なのでしょうか?
このテーマでは、こうしたロドプシンの機能の本質に迫る問いを解決することをめざして、個々のロドプシンの機能解析やアミノ酸置換による機能変換に取り組みます。

研究テーマ3: 高度好熱菌におけるレチナール産生とロドプシンの成熟過程の解明

私たちは、2013年に高度好熱菌からロドプシンをはじめて発見しました。それは予想外の発見でした。なぜなら、高度好熱菌の生息する高温環境では、ロドプシンの機能に重要なレチナールが生成されてもすぐに分解されてしまうからです。そのため、高度好熱菌にはロドプシンがないと考えられていました。私たちの発見によって、その常識が覆されたのです。
しかし、高度好熱菌にロドプシンがあることはわかりましたが、高度好熱菌の細胞内でどのようにしてレチナールが作られ、その後どのようにしてロドプシンに組み込まれるのか?という謎は未だ明らかではありません。私たちは、レチナール合成とロドプシン成熟の過程が共役していると予想しています。このテーマでは、高度好熱菌のレチナール合成酵素の機能解析やロドプシンとの相互作用解析を行い、高度好熱菌におけるロドプシンの成熟過程を明らかにします。